抗インフルエンザ薬は必要なのか

 日本では「インフルエンザ」=「抗インフルエンザ薬」と思われている方がとても多く、なかにはインフルエンザは抗インフルエンザ薬を使用しなければ治らないとまで思っておられる方もおられます。もちろん誤解なのですが、このような誤解が広まっている状態は世界的にみると特異です。

 

 海外ではどうかというとハイリスクの方、実際には心臓病、呼吸器疾患(ひどい気管支喘息など)、糖尿病、先天代謝異常症、免疫不全、腎臓病といった病気を持っている方や高齢者、妊娠28週以降の妊婦になりますが、これらの方がインフルエンザに罹った場合には抗インフルエンザ薬の使用が推奨されています。ハイリスクでない方は必要ないと考えられています。それはハイリスクの方で使用した場合には入院のリスクや死亡リスクが若干減ることが示されているからです。とても効果的とまでは言えないのですが、いくらかはマシになるとのことで推奨されています。ハイリスクでない方の場合にはそのような効果は確認されていません。こじらせる人は抗インフルエンザ薬を使用していてもこじらせます。子どもで心配されることの多いインフルエンザ脳症も早期に抗インフルエンザ薬を使用しても発症を予防できないこともわかっています。ちなみにインフルエンザ脳症は1万人に1人程度の発症であること、インフルエンザでない風邪でも脳症脳炎のリスクはあってインフルエンザだけが脳に合併症を起こしやすい病気ではないことからインフルエンザのときだけ過剰に心配するのは誤りです。少し余談が混ざりましたが、ハイリスクでない方では発熱の期間がA型で1日弱、B型で半日程度短くなるという効果ぐらいしか確認されていません。インフルエンザは抗インフルエンザ薬で治るわけではなく、抗インフルエンザ薬がウイルスが増えるのを抑えている間に免疫ができるのを待っているのです。抗インフルエンザ薬を使っても使わなくても免疫ができれば治りますし、逆に言うと免疫ができるまでは治りません。

 

 また2012年に興味深いデータが出ています。「2008/09年シーズンにA型インフルエンザに罹患した患者の2009/10年シーズンにおける再感染率を、2008/09年シーズンの治療法別に調べたところ、再感染率は無治療であった群の9%に比べ、タミフル単独投与群では37%、リレンザ単独投与群でも45%と有意に高かった。」ということです。抗インフルエンザ薬を使用すると翌年以降にインフルエザに再度感染する可能性が高まるということです。先の報告はこのあとクラリスロマイシンという抗生剤も一緒に内服すれば翌年に感染しやすくなることもなくなるとして、抗インフルエンザ薬とクラリスロマイシンの併用を勧める内容となっています。でも、どんな薬でもそうですが、副作用のない薬はありません。クラリスロマイシンも一部の方では薬疹や不整脈を起こすこともありますし、絶対的に安全な薬ではありません。抗生物質ですからインフルエンザ自体には効果はありませんし、常在菌(普段は善玉菌が悪玉菌を抑えてバランスがとれた状態)のバランスを崩しますし、抗生剤の効きにくい耐性菌が増える原因にもなります。治療にどうしても必要な薬ならこれらのマイナス点を上回るプラスの効果が期待できるので使用されるべきですが、インフルエンザを治す上では本来は必要のない薬ですから、マイナス点を考えれば翌年の再感染軽減のためだけに処方されるのは行き過ぎとしか言えません。


 ここで2009年のパンデミックインフルエンザを振り返りたいと思います。このとき一定数の高齢者が新型ウイルスに対する抗体を持っているとの報告がありました。昔に似たようなウイルスが流行した時に獲得した免疫だと考えられています。2009年のインフルエンザは例年よりも高齢者の発症が少なかったのですが、過去の免疫がいくらかは有効であったと考えられます。 逆に考えると抗インフルエンザ薬の使用で不十分な免疫しかできなかった場合、年をとってから(つまり、インフルエンザに対してハイリスクとなってから)十分な免疫がないことでインフルエンザ感染を重症化させる可能性が出てきます。この懸念が実際に起こるのかどうか確かめられるのは何十年も後の話です。もし実際に懸念通りの結果となれば対応する方法はありません。抗インフルエンザ薬の使用にはそのような未知のリスクも存在するのです。

 

 このようにハイリスクでない方にとって抗インフルエンザ薬はA型で1日弱、B型で半日程度短くなるという限定された効果しかないのです。

 

 それでも発熱がつらい(大人)、つらそうだ(子ども)ということで抗インフルエンザ薬を希望される方も多いのですが、熱でつらいときは解熱剤(アセトアミノフェン、イブプロフェン)を使用することでしのぐことができます。半日なら1回程度、1日なら2回程度の解熱剤使用の増加ですみます。薬剤は何でもそうですが、多かれ少なかれ副作用が存在しますが、その副作用を減らすには使用する薬剤を減らすことが最も確実です。症状が熱だけのハイリスクでない方のインフルエンザであれば、「解熱剤だけ使用して1−2回程度その使用回数が増える」のが良いか、「解熱剤の使用を減らすために副作用は増えるかもしれないけれど、翌年以降のインフルエンザ罹患も増える可能性もあるけれど、解熱剤に加えて抗インフルエンザ薬を使用する」のが良いか、どちらが良いのかという観点で考えてみることも必要ではないでしょうか。

 

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