検査を何度も繰り返して成長ホルモン分泌不全性低身長と診断されたのですが・・

 真の成長ホルモン分泌不全症の頻度は人口の4千人〜1万人に1人と言われています。病気をどのように定義するのかで頻度が変わるため、提示した頻度は幅広くなっていますが、多めに4千人に1人の病気として診断について考えてみたいと思います。


 成長ホルモン分泌不全症の診断には成長ホルモン分泌刺激試験という検査が必要となります。成長ホルモンは脳の下垂体という場所から分泌されているのですが、この分泌は時間によりまちまちです。夜に分泌が多く、日中は少なく、運動や風邪などの肉体的なストレスの際には多くなるという傾向はありますが、やはりまちまちです。一定の条件で成長ホルモンの分泌能力を評価することはできません。そのため成長ホルモン分泌刺激試験が必要となります。これは一定の量の薬を分泌刺激物として投与することで成長ホルモン分泌の反応性を見るという検査になります。なるべく一定の刺激を与えるということでより客観的に評価しようという考えです。


 検査というとその結果は何でも正しいように思いがちですが、そうではありません。成長ホルモン分泌刺激試験は20%程度で成長ホルモンの分泌能が本来あるのにないという間違った結果がでます。「分泌能があるのにない」という結果が出ることを、ここでは偽陰性と定義します。(注:人によっては成長ホルモン分泌不全の診断の診断を満たさないのに満たすという点から、偽陽性と定義されることもありますので、他の方の情報を参照される際は用語の違いに注意して下さい。言っていることは同じです。)


 成長ホルモン分泌刺激試験では20%程度の偽陰性を生じるので1回の検査だけでは5人に1人が誤って成長ホルモン分泌不全症と診断されることになります。5人に1人誤診するというのは医師としては大問題です。もちろん患者さんにとっても問題です。そのため成長ホルモン分泌不全症の診断のための分泌刺激試験は刺激する薬剤を変えて複数回行うことになっています。

 

 では2つ分泌刺激試験した場合を考えましょう。2つともが偽陰性になる確率は20%×20%0.2×0.20.044%となります。誤診の確率はかなり減りました。4%の精度ならまずまずです。ただし、偽陰性率が30%とすると2つ分泌刺激試験した場合でも9%となり、11人検査すると1人が誤診となってしまいますが・・・。


 さらに分泌刺激試験を3つに増やしてみましょう。3つに増やすと2つの時よりも誤診確率はさらに20%となりますから、0.8%となります。偽陰性率30%の場合でも2.7%となりますから、これなら良さそうです・・・。ところが実は別の問題が生じます。成長ホルモン分泌不全性低身長には重症度別の診断基準があり、それが別の問題に関係します。そのため先に成長ホルモン分泌不全性低身長の診断基準を見てみましょう。

 

 成長ホルモン分泌不全性低身長の一般的な診断基準は「身長が同性同年齢の中で-2SD以下(背が低い方の2.3%に入る低さ)」、かつ、「2つ以上の成長ホルモン分泌刺激試験で分泌不全を確認」することになっています。-2SD以下(人口の2.3%)という基準は人為的に決めた基準となりますから、健康でも2.3%の方は低身長ということになります。成長ホルモン分泌刺激試験の分泌不全の基準も人為的に決めたものであり、それがどの程度正しいかはよくわかりません。人為的に決めるしかないので人為的に決めた診断基準ということになります。このようにして診断されるのですが、診断基準では重症度も定義されています。全ての成長ホルモン分泌刺激試験で重度の分泌不全があった場合を「重症」、重症基準には該当しないものの全ての試験で分泌不全があった場合は「中等症」、2つ以上の試験で分泌不全はあったが、1つ以上の試験では成長ホルモンの十分な分泌があったものを「軽症」としています。

 

 先ほどの成長ホルモン分泌刺激試験を3つすれば誤診率が0.8%となると言ったのは重症を含む中等症以上の成長ホルモン分泌不全性低身長を診断する場合になります。軽症の診断の場合の誤診は3つの検査のうちたまたま2つ以上の検査で偽陰性だった場合になりますが、これを計算すると誤診確率は10.4%になります。中等症以上の誤診確率は医療者も満足するぐらい低くなるのですが、軽症を含む誤診確率は10%を超え、さすがに無視できる確率ではありません。


 ちなみに日本で軽症型成長ホルモン分泌不全性低身長と診断される病態は諸外国では病気ではないと考えられていることも多く、治療の対象となっていないこともあります。日本でも小児内分泌の専門家の中には積極的な治療対象と考えていない専門家も大勢います。前の章を参照いただくと積極的治療対象でないことがわかると思います


 このようなことから軽症型の誤診はできるだけ避けたいのですが、成長ホルモン分泌刺激試験の数を増やせば増やすほど軽症型の誤診確率は増えます。表を参考にいただくと良いのですが、5つ検査を行うとその誤診確率は24%となります。4人に1人の誤診確率というのはとんでもない高さです。このためむやみに検査を繰り返すということは意味がないのです。

   

 ここで成長ホルモン分泌刺激試験を2つした場合に話を戻します。このときの重症を含む中等症以上の誤診確率は4%でした。4%という誤診確率にも実は問題があります。結果をまとめましたのでそちらも参照いただきたいのですが、全ての低身長のお子さん(身長が-2SD以下、人口の2.3%)に成長ホルモン分泌刺激試験を2つした場合(誤診率4%)に全人口の0.092%(1087人に1人)が成長ホルモン分泌不全性低身長ということになってしまいます。この章の最初に述べたように真の成長ホルモン分泌不全症の頻度はせいぜい人口の4千人に1人です。本来の割合よりも4倍も病気の診断を受けることになります。病気でないのに病気とされるのですから治療効果は期待できません。治療しているという偽の満足感を得るだけとなります。

 

 このようなことからやみくもに検査を行うことは良くないとわかると思います。一方、これだけ検査の信用度が低いと正しく診断されるのか不安となるかもしれません。確かに専門家でも軽症に近いほど診断は難しくなりますが、逆に重症ほど診断は難しくはありません。検査の結果だけでなく、背の伸び方がどうか、顔つきや体型がどうか、脳の下垂体という部分のMRI検査の結果など他の情報を総合的に判断することで重症ほど正しく診断される確率は高まります。このような状況なので専門家ほど診断には慎重になっています。ただ残念なことに日本国内では真の成長ホルモン分泌不全症の人数以上に成長ホルモン製剤による治療が行われているように思われます。専門医の診療を受けていない方が多いことも原因の一因でしょう。また検査結果からだけでは誰が真の病気で誰が誤診なのかはわかりませんので、より信頼度の高い診断方法ができることも望まれます。


次:それでも診断基準を満たして保険で治療できるなら治療したいのですが・・・

 

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