ワクチン非常事態(2011):誤解から始まる負のスパイラル

残念な報道が続いています。何が残念かというと誤解と不安だけを与える報道だからです。

 

何のことかというと

 

ワクチン同時接種後に女児死亡(201133日 中國新聞)

ワクチン同時接種後4児死亡、一時見合わせへ(201135日 読売新聞)

ヒブワクチンとBCG、同時接種でまた男児死亡(201138日 読売新聞)

ワクチン同時接種 熊本の男児死亡、全国6例目(2011310日 読売新聞)

 

といった報道がありました。さらに最近では

 

ワクチン同時接種で男児死亡=全国8例目、再開後は初―熊本市(時事通信 2011613日)

 

という報道がありました。

 

誰でも十分な情報を持たずに「ワクチンで死亡例」とか「同時接種で死亡例」といった見出しの記事を見ればワクチンが原因で亡くなったと思ってしまいますよね。この見出しだけで誤解と不安を持たれる方が大勢おられます。でも本当にワクチンが原因で亡くなったと判明した人はいませんし、日本だけでなく早くからヒブワクチンや小児用肺炎球菌ワクチンを始めていた海外でもこれらのワクチンが原因で亡くなったと判明した人はいません。ここで大きな誤解が生じてしまっています。このことはとても大切なことなので後でもう一度述べたいと思います。

 

もうひとつ誤解を与える原因のひとつが「因果関係は不明」という言葉でしょう。これは医学の世界の常識なのですが、何事であっても100%という断定はできないという前提があります。ですからほとんど関係はないと思っていても断定してしまうということができないので「因果関係は不明」という表現を使うのです。でも一般の世界でも本当の意味で100%と断定できることはないのではないかと思いますが、医学以外の世界では「因果関係は認めない」といった感じに断定した表現を使うことは多いですよね。このあたりに報道記者も含んだ一般の方と医療者の認識にギャップが生じてしまい、誤解を招くのだと思います。

 

私は今、大きな危機感を持っています。というのも今はまさに日本のワクチンの分岐点だからです。対応を間違うと最悪の方向に進み、逆にうまい対応を取れればより良い方向に進むかもしれません。

 

悪い方向に進むというのは

「同時接種が怖い」

→「単独接種にしょう」

→「単独接種で接種回数が増えると紛れ込み死亡が増える」(あとで説明)

→「ワクチン自体が問題だと誤解が広まる」

→「ワクチン全体の接種率低下」

→「ワクチンで防げたはずの病気が増え、それで亡くなる子供、後遺症を残す子供が増える」

という負のスパイラルです。

現在は残念なことにすでにこの負のスパイラルが始まっているように思われます。

 

しかし、逆に対応によってはより良い理解を得るチャンスも残っています。ワクチンに対する関心が良い意味であっても悪い意味であっても広まっていることは確かですから、正しい情報を適切に提供していくことでワクチンの本質をきちんと理解してもらいこれまで漠然と持っていた不必要な不安もなくす(減らす)チャンスが増えましています。とは言っても、タイミングが遅れると負のスパイラルが進んでしまってどうしようもできなくなってしまいます。今、なんとかしないといけないのです。そのような危機感から今回の記事を急遽作成したのです。

 

さて、ワクチン接種後に死亡にもう一度戻って考えたいと思います。

ワクチンを打っても打たなくても亡くなる子供がいます。乳児突然死症候群と言います。

この中には亡くなる数日以内にたまたまワクチンを打っている子供も必ずいます。

時間的な偶然なのでそんなに多くないだろうと思われるかもしれませんが、大雑把な計算では年間30人くらいは偶然に亡くなることになります。

 

現在の報道はその30人をひとつひとつ報道しているに過ぎません。

というのも海外での調査でもヒブワクチンや肺炎球菌ワクチンが原因でなくなったという事例は存在していないのですが、もし1年間に1人そのような子供がいたとしても30人たまたま亡くなっていたのが31人に増えるだけなのです。この程度の差であれば気づくことは不可能です。死因が不明な人の死亡の中からワクチンに原因がある死亡を見つけることは現実問題としても難しいのです。もちろん30人が40人とか50人になればワクチンが怪しいということがわかりますから、そのような場合にはそのワクチンは中止になるでしょう。一応、念のため述べておきますが、海外でも国内でもそのようなことは今のところありません。ですから安心してくださいね。

 

別の点からも考えたいと思います。

接種後になくなる原因として考えられるものを列挙すると

1:高熱で脳症を起こして死亡

2:遅発性アナフィラキシー(アレルギーの一種)で死亡(接種2日以降はあてはまりません)

3:細菌汚染されていたワクチンで敗血症起こして死亡

4:毒物が混ざっていて死亡

5:免疫異常を起こして死亡

6:その他

があがります。

 

脳症というのは風邪のウイルスなどが原因で非常にまれに起こる病気で脳に障害がでて、死亡率も高く、治っても様々な後遺症を残す危険性の高い状態のことです。熱も伴います。例えばもしワクチン後の死亡の原因がこの脳症だとすると脳症の起こりやすさには人種差があるのでワクチンの副作用にも人種差があるということになります。外国の調査結果と日本の調査結果が異なるという可能性が生まれるのです。

 

しかし、どのような原因であっても、

死亡が1例あれば、

死亡に至らなかったけど生命の危険があった症例が何倍も、

生命の危険はなかったけれども入院した症例はさらに何倍も、

軽症例はそのさらに何倍もいるはずです。

 

死亡例はそのような症例のピラミッドの頂点ですから、確固たる原因があれば底辺の症例がなく死亡例のみしか報告されないということはありえないと思われます。脳症が原因であれば、突然亡くなる人もいるでしょうし、どんどんと悪くなっていって亡くなる人もいるでしょうし、亡くならなかったけれどICU管理になった人もいるでしょうし、ICUに行くまでは悪くなかったけれど入院が必要だった人もいるでしょう。このように同じような症状でも重症から軽症まで様々な状態の報告があるはずです。ましてやワクチンの副作用にみんなが過敏になっていればなっているほどそのような報告は集まるはずですし、報道もされるはずです。

 

実際は死亡例の報告のみでワクチンが原因であれば存在するはずのより軽症な例(ピラミッドの底辺の症状)の報告はありません。これはワクチンに根本的な原因がないことを示唆しています。いわゆる紛れ込みの死亡です。

 

ワクチンは必要と思うけど同時接種が怖いと思われる方もいます。本当に同時接種は怖いものなのでしょうか。実際には調査結果は単独接種と同時接種の有害事象(ワクチンが原因かどうかに関係なくワクチンを打った後に出現する具合の悪い出来事)についても差はないという報告がほとんどです。同時接種をみんなが避けて単独接種ばかりになると接種回数が増えるので紛れ込みの期間が増える分、紛れ込みの死亡例は必ず増えます。わかりやすく極端な例を挙げてみます。

 

生後2か月1週 ヒブ、生後2か月2週 プレベナー、生後2か月3週 B型肝炎、生後3か月 DPT、生後3か月1週 ヒブ、生後3か月2週 プレベナー、生後3か月3週 B型肝炎、生後4か月 DPT、生後4か月1週 ヒブ、生後4か月2週 プレベナー、生後4か月3週 DPT、生後5か月 BCG(便宜上、今は日本では一般的ではありませんが、世界的には一般的なB型肝炎ワクチンもいれてスケジュールを組んでいます)

 

ワクチン接種後1週間の死亡を問題とするとこのスケジュールでは生後2か月1週から生後5か月を超えるまでの3か月の間の乳児死亡すべてが問題となります。この間の死亡すべてがワクチンに原因があるというように思われる方は一般の方の中にもそうそういないとは思いますが、誤った認識が広まってしまって冷静な判断ができなくなるとワクチンがすべて悪いというように思われる方は増えてしまうでしょう。

このような負のスパイラルは私たちにも保護者にも子供にもよくありません。

今のうちに正しい認識を持っていただきたいと思います。

 

今回のような報道が出る前にワクチンが原因でなくてもこれくらいの紛れ込み死亡が必ずあるということを行政からさまざまな方面(一般の方も含む)に情報提供しておくことが必要だったのかなあと思います。

 

また日本でも自然発症率と比較して死亡率が高くなることがないかという調査がヒブワクチンや小児用肺炎球菌ワクチン(プレベナー)で始まっています。これまでのワクチンではこのような調査は行われていませんでした。海外ではこのような調査は一般的なようですが、日本ではヒブワクチンや小児用肺炎球菌ワクチン(プレベナー)、ヒトパピローマウイルスワクチン(HPV:子宮頚癌ワクチン)で初めて始まりました。これまでワクチンはまず関係ないであろうと思われて報告されなかった事例も報告されるようになりました。さらにこれまでだと国に報告されたのちに十分な調査の結果、問題があれば報告されていました。一方、ヒブ、プレベナー、HPVでは国でなく市町村に報告されるシステムであり、十分な調査がなされる前にほとんどが紛れ込み死亡であるはずなのですが発表されてしまうようになりました。残念なことにマスコミもこの違いの区別がついておらず、意味の少ない不安だけをあおるような報道を行っています。

 

国は自然の死亡率と比べてワクチン接種後の死亡率が高くないかという調査を行っています。具体的には10万接種あたり死亡者が0.5を超えないかどうかという調査です。この調査をしっかりしてもらって、出てくる結果を正しく評価していくことで初めてワクチンの安全性・危険性を評価することが可能になります。わたしたちも大きな視点から物事を評価できるような力を身に着けることが求められています。

 

実際のところワクチンを打つことで乳児突然死症候群が減るという調査結果があります。ワクチンを打つことで多くの命を救えますし、後遺症を残す子供も減らせます。ヒブワクチンと肺炎球菌ワクチンを他の先進国並みに早期に導入していれば何千人もの子供が救われていたはずですし、これからも毎年何百人もの子供を救うことが可能です。また同時接種には必要な免疫を早期につけてワクチンの効果を最大限に生かせる方法ですし、単独接種であれば風邪を引いた云々でスケジュールが狂いやすいのですが、同時接種ではそのような狂いも減らすことが可能です。現実問題としてワクチンを打つことで得られるメリットは打たないときのメリット(打たないという安心感)よりもはるかに大きいものです。

 

誤解を与える報道に惑わされずにワクチン接種を、同時接種を進めていってほしいと思います。別バージョンの説明も記載しましたのでそちらもご覧ください。


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