予防接種の副作用って?2

またまた一般の人が「ワクチンってどうなの?」と不安になるような報道がありました。

報道の内容の問題点に関してはブログに書きましたが、実際問題どのような出来事があったのか気になりますよね。この件を通して予防接種の代表的な不安である副作用について見ていきましょう。

 

今回の件についてどのような出来事であったのか、どのように専門家が判断しているのかについて会議の結果がWeb上で公開されています。

 

日本脳炎の予防接種死亡例について(厚生労働省2012年10月31日)

 

日本脳炎ワクチン接種5分後に心臓が止まって亡くなったわけですが、その後の検証で不整脈の可能性が最も高いと考えられています。このことに詳しく触れる前にワクチンの副作用(正式には副反応と言いますが、一般的には副作用の方が通りは良いので副作用と表記します)について理解しておいてもらうことが必要ですから、簡単(といっても少々長くなります)に説明しておきたいと思います。副作用の起こる時間の順でお話しします。


 まず打ってすぐに起こる副作用です。打った場所が痛くなったり、腫れたりすることがあります。これは最も多い副作用と思われます。注射タイプのワクチンを打てば避けて通れないのですが、一般的には大事な神経や血管などのない場所を選んで打つので大きな問題が起こることはまずありません。


 次に起こる可能性があるのは血管迷走神経反射です。15分以内に起こることが多く、遅くとも30分以内にほとんどが起こります。ワクチン自体ではなくワクチンや痛みに対する恐怖が原因です。血管迷走神経反射が起こると血圧が下がり、しんどくなります(いわゆる脳貧血と呼ばれる状態です。)。ひどくなると失神が起こります。ワクチン接種者の1万人に1人(特に思春期〜成人)でこの血管迷走神経反射による失神が起こるとされています(人種差もあまりないようです)。


 もうひとつのワクチン接種後に起こる重篤な合併症はアナフィラキシーです。アナフィラキシーとはアレルギーの一種です。体がかゆくなったり、気管が腫れて呼吸が苦しくなったり、血圧が下がります。血圧が下がりすぎるとアナフィラキシーショックという危険な状態になります。ここまでひどくなるのは100万接種で1人程度です。ですからかゆみや呼吸苦といった症状が出始めた段階で適切な対応をすることが必要となります。逆に言うと適切な対応をとればまず大丈夫ということです。アナフィラキシーは接種後30分以内にほとんどが起こります。血管迷走神経反射とアナフィラキシーの両者をあわせても重篤な合併症はまれなので必要以上に心配すべきではありません。しかし、より安心・安全にワクチンを受けるためには医療機関で30分様子を見てから帰ることが推奨されます。


 生ワクチンでは極まれに病気そのものを接種後1〜2週間して起こすことがありますが、自然にかかったときよりは症状も軽く、リスクは格段に小さくなっています。生ワクチンで発症される場合はなんらかの免疫の病気を持っている可能性があり、その判断が必要になります。とは言え、ワクチンで症状が出るのはできれば避けたいことです。しかし、ワクチンの弱めた病原体で症状がでる方は自然に罹かっていればもっとひどくなっていた可能性もありますから、逆に軽く済んで良かったと考えた方が良いのかもしれません。もちろんポリオのようにそのようなリスクのない不活化ワクチンでの接種が可能であれば、より安全なワクチンに変えることは必要ですし、より安全なワクチンを求める努力も必要なのは言うまでもありません。ただし、安全を求めすぎて効果も弱くなるのも問題ですが。


 つぎに理解しておきたいのが副作用と有害事象の違いです。副作用(繰り返しですがワクチンでは副反応が本来の用語です)はある行為が原因になって起こった元々の意図とは違う出来事・結果のことです。ですから副作用のすべてが悪いものであるというわけではなく、良い副作用もあります。でも問題となるのは悪い結果のときだけですから、「副作用=その行為が原因で起こった悪い出来事」と考えて良いでしょう。一方、有害事象というのはある行為の後に起こった、体にとって良くない出来事・結果のことです。ここで注意すべきなのはその行為に原因があるかどうかは問われていないことです。ですからその行為以外の原因でたまたま起こった出来事も有害事象としてカウントされます。例を上げるとワクチンの後の発熱です。ワクチンが原因で熱がでることもありえますが、たまたま風邪を引いて熱が出ることもあります。ワクチンが原因であるかないかに関係なく有害事象としてカウントされます。


 さらに理解していただきたいのは薬やワクチンの添付文書に載っている副作用(以下では添付文書上の副作用とします)は真の副作用とは異なるということです。真の副作用は原因が特定されていますが、添付文書の副作用は真の副作用以外にも有害事象の中で原因がはっきりわからなかったものを含みます。先ほどのワクチン後の発熱の話で例えると、熱の原因がインフルエンザであるとかRSウイルスであるとか細菌感染であるとかわかれば、副作用のカウントから除外されます。しかし風邪だとは思うけど検査で原因がわからないケースも多数あります。むしろその方が多いのですが、そのような原因が検査ではっきりなっていないケースこそが「有害事象の中で原因がはっきりわからなかったもの」であり、これは添付文書上の副作用としてカウントされます。もっと正しく言えば、有害事象(この場合は発熱)を診断した医師がワクチン以外に原因があると断定できなかったものになりますが、これはかなり主観が入ります。医師によって多かったり少なかったり差が出ます。それだけ曖昧で不正確な主観的データですが、これが真の副作用と混同されて一人歩きしてしまうのが問題となります。


 ワクチンにおいて報告されるのは基本的に有害事象です。ワクチンが原因かどうか関係なく報告されます。それをマスコミが副作用と混同して報道し、誤解を広めるという図式は以前からありました。有害事象として報告するからややこしくなるというのであれば、有害事象としての報告を止め、原因がわかったケースのみ報告すれば良いのかもしれません。しかし、そうするともし本当にワクチンに問題があった場合には気づくのが遅れます。ですから見逃しがないように有害事象として広く情報を集め、その中で疑わしいケースを集積し、まぎれ込みとして考えられること以上の問題が起こっていないかを見るというシステムが必要です。そのことをマスコミが十分理解して報道すれば変に問題がこじれることはないと思います。


 以上をある程度理解していただいただけましたでしょうか?理解が不十分ですと今回の突然死の問題を正しく理解していただくことは難しくなるかもしれません。理解していただけたとして先に進めていきます。

 

 今回の突然死ですが、接種後5分で心臓が止まっている状態でした。その前になんらかの症状を訴えていたわけでもありません。また解剖の結果、アレルギー反応が起こっていた痕跡もないことからアレルギーで起こるアナフィラキシーではなかったことがわかります。次に血管迷走神経反射ですが、これで心臓が止まることは極々まれに起こるようですが、蘇生への反応はよく少しの刺激で心臓は再び動き出します。ただし心臓に何らかの基礎疾患があるケースや高齢者では危険なケースもあります。排尿排便したときにも血管迷走神経反射が起こりますが、寒い時期であればリスクが高まります。今回のケースでは解剖の結果も心臓自体に問題はなかったということがわかっています。通常の迷走神経反射で命に関わるような構造的な問題はなかったということです。そうなると何が考えられるのでしょうか。報告書の中でも触れられていますが、致死性の不整脈が起こったという可能性が最も高いものと思われます。みんなが起こすかというとそういうわけではなく、そのような素質を持った人がひどく興奮すると起こす危険があるということです。発達障害を持っておられワクチンに対する恐怖が非常に強く、ひどく興奮されたのでしょう。内服薬の問題も言われていますが、可能性としてはありえるものの、こちらも当日の内服はしていないこともありどの程度影響したのかは何とも言えません。このケースでワクチンが原因と言えるでしょうか?ワクチン自体には問題はなくワクチンを接種したときの状況の問題であったということはできると思いますが、これはどのように理解すれば良いでしょう。やはり他の例に置き換えた方が理解しやすいと思います。例えばワールドカップや高校野球のテレビ中継を見ていてひどく興奮した人が突然死したというケースを考えましょう。実際にも起こっています。この場合、熱戦になったワールドカップや高校野球が悪いのでしょうか、中継したテレビ局(すごく興奮する実況や演出が原因かもしれません)が悪いのでしょか。今回の件ではワールドカップや高校野球をワクチンに、テレビ局をワクチン接種医に置き換えると同じケースであることがわかります。


 また別の例えで別の視点からも考えてみましょう。ワクチンを接種した帰りに交通事故にあい死亡したとしましょう。有害事象は先にも述べたように前後関係しか重視しませんので、この交通事故による死亡もワクチンの有害事象に含まれます。交通事故はワクチン接種に行っていなければあわなかった可能性が非常に高いので、ワクチンを接種しに行った状況が関係したと言えますが、ワクチン自体が原因であるとは誰も考えないと思います。それでも有害事象となるのです。ワクチンに行っていなければ死ぬこともなかったことになるのですが、交通事故は日常生活の中でいつ起こるかもわかりません。車に乗らなくても、自転車に乗らなくても巻き込まれることもあります。いつ起こってもおかしくないことがたまたまワクチン接種の帰りに起こったら有害事象として扱われるのです。この例の交通事故による死亡を今回の不整脈による突然死に置き換えても同じことが言えます。


 次に20127月にあった日本脳炎ワクチン接種7日後に脳症で死亡されたケースを見てみましょう。報告書の症例2です。このケースは接種翌日に風邪症状と発熱を起こしています。その後、脳症となって死亡されました。風邪はウイルスで起こりますし、どのウイルスでも極まれに脳症を起こします。このケースではその原因のウイルスがはっきりわかりませんでした。その結果、ワクチンが原因でないと断定できなかったために副作用の検討対象となりました。原因がわからなかったのは十分な検査ができていないのかもしれませんし、どれほど詳しく検査してもわからないこともあるのでたまたまかもしれません。また日本ではなぜ亡くなったかということを検証する体制が整備されておらず、それが影響して詳しく調べないで終わっているのかもしれません。しかし、このケースは症状経過から見ると風邪に伴う脳症に典型的な経過をとっています。かなり高い確率で風邪のウイルスによる脳症がワクチン接種に紛れ込んだものと言えます。


 通常、マスコミが問題にする「接種○日後に突然死」の場合はワクチン以外の原因(感染症や体質に影響されるとされる乳児突然死症候群、誤嚥など)による紛れ込みが問題のことが多いのですが、今回のケースはワクチン接種が全くの無関係とは言えない有害事象であるのだけれども、ワクチン自体の問題はないという珍しいケースです。どのように安全に配慮してもこのような紛れ込みをなくすことはできません。事前に十分診察しても問診をとっても0にはできないことです。だからアメリカではワクチン前の診療は重視されていません。何かアクションを起こしたときに起こった出来事は関連があってもなくてもそのアクションのせいではないかと思ってしまう傾向が誰しもありますが、アクションを起こさなかったときにそれに関連する出来事があっても原因に気づかないケースがあることを認識してください。ワクチンを打ったというアクションがあるのでどうしてもいろいろなことが気になってしまうのですが、ワクチンを打たなかったらどうなるかを考えて欲しいということです。それぞれのワクチンはデメリットよりもメリットがはるかに大きいためワクチンとして認可されています。ワクチンに限らず100%の安全が保障されているものはこの世の中にありません。ゼロリスクを求めることは不可能です。しかし、医師もワクチン会社も安全を追い求めています。日本はワクチンの導入自体は遅く後進国(最近は発展途上国になりましたが)ですが、ワクチンの質や接種環境だけ見ると先進国です。世界で最も安全なワクチン接種が行われている国と行っても良いでしょう。ワクチンだけ特別視して不必要に過度に怖がる必要はないと思います。副作用と有害事象を正しく理解していただければ自然と不必要な不安はなくなると信じています。逆にこの用語の問題を社会全体(特にマスコミ)が正しく理解しないと同じようなことがいつまでも繰り返されるでしょう。 

 

副作用と有害事象についてはこちらでも以前述べています。ご参照ください。

 


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