インフルエンザ迅速検査だけに限りませんが、検査結果の解釈のためには検査前にもともとどの程度その疾患の可能性があったのかで変わってきます。これを統計学的にきちんと理解するためには感度、特異度、陽性尤度比、陰性尤度比、検査前オッズ比、検査後オッズ比、検査前確率、検査後確率を理解する必要があります。しかし何ステップかの計算が必要となること、そもそもオッズ比や尤度比がわかりにくこともあり、ここではもっと直感的に理解していただくことを目指します。医療者だけでなく一般の方にも直感的に理解していただけると思っていますが、難しければコメントください。ただし、感度と特異度については理解が必要です。
感度:その検査でどのくらい正確に病気の人を診断できるかという指標。例えば感度80%なら病気の人が100人いれば80人は正しく病気と診断されます。逆に言うと20人は検査しても見逃されます。
特異度:その検査でどのくらい正確に病気でない人を診断できるかという指標。例えば特異度90%ならその検査でわかる病気ではない人が100人いれば90人は正しくその病気ではないと診断されます。逆に言うと10人は誤って病気と診断されてしまいます。
ここではインフルエンザ迅速検査について見ていきますのでインフルエンザ迅速検査の感度と特異度がどの程度かを見てみましょう。
文献「Caroline Chartrand et al.Ann Intern Med. 2012;156:500-511」によるとインフルエンザ迅速検査の感度は62%(インフルエンザの人の62%を正しく診断する)、特異度は98%(インフルエンザでない人の98%を正しく診断する)となっています。この論文は119本の論文のメタアナリシス(最も信頼性が高いと考えられている分析方法)です。実際には感度と特異度はどのような求め方をするかで値が変わってきますし、現在のキットの精度は年々上がってるのでこの数字が正しい訳ではないのですが、考え方の方向性としてはそれほど変わりません。
それではこのデータを元に直感的に検査の特性を見て行きましょう。
ケース1:発熱患者の90%がインフルエンザのとき
検査で陽性の人で実際にインフルエンザに罹患している人は99.6%
(陽性的中率が99.6%)
検査に陰性の人で実際もインフルエンザに罹患していない人は22.3%
(陰性的中率が22.3%)
ケース2:発熱患者の1%がインフルエンザのとき
検査で陽性の人で実際にインフルエンザに罹患している人は23.8%
検査に陰性の人で実際もインフルエンザに罹患していない人は99.6%
ケース3:発熱患者の0.1%がインフルエンザのとき
検査で陽性の人で実際にインフルエンザに罹患している人は2.9%
検査に陰性の人で実際もインフルエンザに罹患していない人は99.96%
グラフにすると以下のとおりで、検査前確率(もともとどれくらいの割合でインフルエンザ患者がいるかの確率)によって陽性的中率も陰性的中率も大きく変わります。
以上のように検査前にどの程度インフルエンザが疑わしいかで検査結果の判断を変える必要があります。これなくしてはより正しい診断には結びつきませんし、誤診の確率を高めてしまいます。検査の感度・特異度がより改善されていても基本は同じです。さらにこれはどの検査でも同様に当てはまります。検査は医師が臨床的に判断しにくいケースで情報を増やすために行って初めて意味があるので、なんでもかんでも検査をするというのはいろいろな意味でリスキーです。