1:ややこしい用語について
一般的に「副作用」と呼ばれることが多いのですが、副作用と呼ぶのは薬の場合でワクチンの場合には「副反応」と言います。英語では「副作用」も「副反応」もside effectと呼んでいて特に区別されていません。副作用という言葉自体にあたかも悪そうなイメージがあるので、それを避けるため副反応と呼ぼうということになっているというのが現状ではないでしょうか。言葉遊びのようですね。
しかも添付文書に載っている「副反応」と実際の「副反応」とは異なっています。実際の「副反応」とはワクチンが原因の目的以外の生体反応(多くは有害事象)ですが、添付文章に載っている「副反応」は「予防接種の後に起こった有害事象」の中でワクチン以外の原因が特定できなかったものということになっています。では、何度も出てきた「有害事象」ってなんでしょうか。これは「予防接種が原因かどうかは関係なく好ましくない出来事」のことです。たとえば予防接種した後に熱が出たとします。この熱は予防接種の可能性もありますし、たまたま風邪をひいたためかもしれません。原因を調べようとすると膨大な検査を膨大な費用で行う必要がありますが、いずれが原因であっても大概は勝手に治ってしまいます。予防接種でなく感染症が原因であった場合はこじらすこともあるのでこちらが原因の場合の方が実は大変です。そんなこんなで予防接種のあとの熱が予防接種によるものかどうかを調べることに意味はまずないのです。このように有害事象には予防接種に関係のない原因で起こる出来事、いわゆる「紛れ込み」を含みます。このときインフルエンザに感染したことが検査ではっきりすれば添付文書場の「副反応」には含まれませんが、原因の特定が困難な一般的なかぜによる発熱であれば、ワクチン以外の原因をはっきりと特定できなかったということで添付文書場の「副反応」に含まれてしまいます。しかもそれぞれの医者でその基準が変わっている可能性もあります。そんなの不正確な情報じゃないかと思われる方もいるかもしれません。そう不正確な情報なのです。海外ではこのような副反応ではなく、有害事象が添付文書に載っています(これについてはまた別に触れたいと思います)。この場合もワクチンが原因で何が何パーセントで起こるかはわかりません。ワクチンが原因で何がどんな確率で起こるのか知りたい方もおられるでしょう。でも一時的な出来事でそれほど害もなければ調べることにメリットが少ないことは何となくでもわかってもらえると思います。このように紛れ込みを含んだ不正確な情報でいるのが有害事象でいわゆるみんなが「副反応」とか「副作用」と呼んでいるものの正体です。これは安全を最優先するためのもので真の「副作用」を見逃さないための対策だと思ってください。
余談となりますが、このあたりをどう理解するかというところに「情報をどのように受け止めるか」、「情報をどのように整理するか」といった点での情報処理能力がいくらか必要になります。発熱に対する誤解や種々の誤解でも同じことがいえますが、日本人はこのあたりの力は教育で身につける機会がないため苦手な部分だと思われます。
このように一般には「副反応」は予防接種が原因の好ましくない出来事として認識されていることが多いので、予防接種後に脳炎を起こすと「脳炎は大変稀な病気だからワクチンが原因だろう」というまことしやかな推測がなされますし、そのように思いこんでしまう方も多いものと思われます。しかし、これは本当でしょうか。予防接種にはそれぞれ副作用報告期間というものがあって、ワクチン後の脳炎の場合はDPTや日本脳炎、インフルエンザでは1週間、麻疹や風疹では3週間となっています。ワクチン後の脳炎発症率(紛れ込みも含む)は100万人あたり約0.4人です。一方、脳炎が自然に起る確率(自然発生期待値)は年間100万人あたり56人だそうです。これは1週間では100万人あたり1.1人になります。単純に比較すると脳炎が起る確率は予防接種をした場合の方が少ないのです。もちろんこれにはそれぞれのグループでの年齢の問題やその他にももろもろの要因が加わるため、「脳炎が起る確率は予防接種をした場合の方が少ない」とこの情報だけでは断定できないのですが。これが情報をどう理解するかというところです。少なくとも予防接種後の脳炎の発症率は世界的に見ても同じ傾向だそうで、最近、ごたごたがあった旧日本脳炎ワクチンでも同様ではあるようです。
2:真の副反応
つぎに真の副反応を見てみましょう。
「VPDを知って、子どもを守ろう。」の会の会長で日本赤十字社医療センター小児科顧問の薗部友良先生によると真の副反応と言うための条件とは
(1)疫学調査で、ある有害事象がワクチン接種者に、有意差を持って非接種者よりも多く多く見られる。
(2)ニセ薬(プラセボ)などをボランティアに接種する研究でも、同じくその有害事象がワクチン接種者に有意差を持って、ニセ薬接種者よりも多く見られる。
(3)もし真の有害事象が存在するとすれば、接種後の発症の時期、経過、検査所見、死亡した場合の病理所見などが、ある一定の傾向を認める。
(4)その理由を医学的に証明できる。
(5)通常病原体のいない場所からワクチンの弱毒化したウイルスや細菌を認める(生ワクチンの場合)。
ということになります。
ここで注意が必要なのは「選択のバイアス(偏り)」です。
例えば、ワクチンを打った次の日に突然亡くなったという例が数例あったという場合(死亡例の報告以外には報告なしとします)ですが、このような例ばかりを集めると(3)は満たしてしまいます。選択して選んだ結果ですから一定の傾向を持つのは当たり前です。そこで(3)を考えるときには同時に(1)や(4)も考える必要があることがわかると思います。
(1)を知るには大規模調査が必要ですが、それがわかるまでに重要なのは(4)になります。今あげているような場合ですが、わたしにはワクチン接種から時間を空けて突然亡くなるような医学的な可能性はまったく思いつきません。たとえ(可能性としてはまずない話ですが)、ワクチンに何か不純物(毒物など)が混入してしまっても、時間がたった後に突然、亡くなるほどの症状がでる物質も思いつきません。死ぬほどの症状がでるのであれば徐々に症状は強くなっていくはずです。時間をあけて「突然」起こる出来事をワクチン接種に結び付けるのは医学的・科学的には矛盾があります。
また死亡するまで至らなくても死亡しかけた例が死亡した例よりもはるかに多く存在し、さらに死にかけた例よりも多くの軽症症状例が存在するはずです。軽症例の報告はされないこともありうるのですが、死にかけた場合は報告されるはずですから、死亡した例だけしか存在しないことも医学的・科学的に矛盾があります。
一方、このようなに時間をあけて突然、それまでの状態からは予測がつかないことが起こるのは紛れ込みの典型です。変な例えですが、13日の金曜日に好ましくない出来事が起こったという話だけを集めると「やっぱり13日の金曜日は不吉だ」という結論になってしまいます。本来ならほかの曜日ではどうなのかとか、13日以外の日付ではどうかとか、悪いことだけでなく良いことがどれだけ起こっているのかといったことまですべて踏まえて結論をつけないといけないのです。ワクチンを怖いものだとする意見やワクチンに関係なくても世間一般の迷信の類は「選択のバイアス」が原因であることが多いように思われます。
それでは真の副反応についてざっと見てみましょう。
1)局所反応(接種部位の腫れや痛み)
これは多いです。とくに痛みは針を刺すので当たり前といえば当たり前ですね。まず後遺症は残さないので、それほど神経質になる必要はないと思います。
2)MRワクチンや小児用肺炎球菌ワクチン後の発熱
自然の確率よりも若干高いようです。実はこれらのワクチン以外ではほとんど熱は出しません。熱が出たとするとたまたま風邪をひいた可能性が高いのです。
3)アナフィラキシーショック
接種後30分以内に起る。
現在は原因となるゼラチンは除去されている。
卵成分も使用されている場合でもほとんど問題ないくらいの量になっている。
4)免疫不全児に対する生ワクチン
発症、重症化することがある。
5)生ポリオワクチン
以前、日本で使用していた弱毒生ワクチンでは100万分の1程度でポリオが発生
6)BCG
リンパ節腫大(1%)・・・特に治療は必要ない
重大な副反応:全身性播種性BCG感染症、骨膜炎、骨炎・骨髄炎、皮膚結核様病変
…何らかの免疫不全症患者であることが多い。
7)ムンプスワクチン
髄膜炎が0.03~0.06%に起こる。症状は軽い。これにはもちろんのように自然に流行しているムンプスウイルスによる紛れ込みの髄膜炎も含まれています。
3:ワクチンをどう評価するのか
このワクチンの真の副反応をどう評価するかですが、そのためには該当の病気に実際になったときにどうかということを考える必要があります。わかりやすいのがおたふくかぜ(ムンプス)の自然罹患とムンプスワクチン接種時の比較です。
さきに示したようにムンプスワクチンの髄膜炎の頻度は0.03~0.06%です。これは3万~2万回に1回の確率で無菌性髄膜炎(これは細菌が原因でない髄膜炎という意味でたいていはウイルス性髄膜炎のこと)を起こします。これには本当にワクチンが原因のものもありますし、自然に流行しているウイルスが原因のものもあります。多く見積もっての割合です。そうは言っても実際にワクチンで髄膜炎になることもありえるわけで、ワクチン打ってそんなのは嫌だと言う方もいると思います。そこで自然罹患時を考えてみましょう。今の日本はムンプスワクチンの接種率が低いのでワクチンをせずに過ごしていれば一生のうちにムンプスになる確率は限りなく100%に近いと言えます。自然に罹患すると無菌性髄膜炎を1~10%の確率で起こします。10人~100人に1人の確率です。ワクチンの場合と比べると200~3000倍も高い確率です。
またワクチンではまず難聴になることはありませんが、自然に罹患すると1000人に1人が回復困難な難聴となります。これだけの比較でもワクチンの方が安全であることは誰でも理解できるのではないでしょうか。
あと追加で言っておきたいことがあります。昔、ワクチンが粗雑に作られていた時代は今よりも副反応が多く、アナフィラキシーなどの命にかかわるような副反応もその分多かったので、昔の情報だけを鵜呑みにするのはやめてください。最新の情報を手に入れるようにしてください。
最後も余談ですが、このように情報を比較し検討するということも日本の教育では重視されていないと思います。
いずれにせよしっかりと情報を集め評価する。自分でするのが大変なら少なくとも質の高い情報を適切に評価しているか判断し、納得できれば利用するといったことが必要になります。
さらに別の視点でワクチンの副作用について知りたい方は「ワクチンの副作用って?2」(2012年11月記載)も参照してください。